晩秋 来たりて
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。

  

昨日が“いい夫婦の日”で、今日は“いい兄さんの日”なんだってと、
そういうことにまで博識な平八が教えてくれて、

 「え〜、何か意味でもあるんですか?」

歴史上 有名なお兄さんが亡くなった日だとか?と、
七郎次が訊くと、ふるふるふるとかぶりを振って見せ、

 「単なる語呂合わせですよ。
  サブカルの世界では重宝されてるようですが。」

ちなみに、兄の日は6月6日で、
血液型診断みたいに“兄弟姉妹”を分析したお人が、
星座を基盤に申請して決まったそうで、と。
語呂合わせなら、アメリカ育ちの彼女にはますます縁がないだろに、
けろんと言ってのけるところが物凄い。
何で物凄いかまでは気がついてないものか、
それとも…いつもなら開演1時間前には顔を見に来てくれるものが
今回は30分切ったほど遅くなって
やっと楽屋に来た彼女らだったその段取りへむっかりしているものか。
ふわっふわのシフォンの衣装にくるまれた、今回もお姫様役の久蔵が、
日頃の無表情に輪を掛けて、むむうと膨れて…いるらしく。

 「ごめんたら久蔵。」
 「〜〜〜。」

造花のお花を散らされた、エアリーな金の綿毛をふるふる揺さぶったのは、
駄々っこみたいにますます拗ねたんじゃなく、

 「ああよかった、判ってはおいでなんですね。」

彼女らの遅刻が彼女らのせいじゃないと、さすがに判っているかららしく。
ホッとしたようにモヘアセーターの胸元へ手を伏せた七郎次だったのへ、
そんな彼女の手の上から頬を軽く寄せるようにして、
きゅうと抱き着き、甘えるところはいつも通り。
舞台化粧のどうらんがくっつかないよう加減してとはいえ、
下手によしよしをすると髪の飾りが落ちないか、七郎次の方は気が気じゃあなく、
そんな二人を見やりつつ、

 「警備が厳しいってことは、久蔵殿本人も聞いてたんですね。」

その警備に引っ掛かり、いつもならほぼ顔パスで楽屋までは入れたものが、
まずは会場の入り口でチェックされ、
関係者オンリーとなっているで通用口でも引き留められた挙句、

 「すいませんね、差し入れのお饅頭も開封されちゃいまして。」

テーブルの上へ置かれたお菓子の包みは、
綺麗な包装紙で丁寧にラッピングしてきたらしいものを、
いかにも不器用な担当が包み直しましたという按配でよれていて。
それへもううんと、気にしないでとかぶりを振った紅バラ様のお怒りは、
むしろ そういった気の利かぬ警護の担当に向いてるらしかったが、

 「時期が時期だもの、しょうがないよね。」
 「〜〜〜〜。」

世界のあちこちでとんでもないテロ行為が頻発しているその上、
先週からのお披露目となってた このバレエ公演、
連休と楽日が重なってる今日のこの日に
以前からもご贔屓くださっている某国の要人の方々が鑑賞に来ておいでだとか。
それこそ時期が時期だからか、どこの誰というところは伏せられているが、

 「急遽伏せたところで、
  そういう人の予定ってのは昨日今日で変えられるもんじゃなし。」

その筋の人間にかかればあっさり把握できるというもの。
おまけに見る人が見れば速攻で分かろう この厳重な護衛っぷりと来ては、
中止したわけじゃないというの、広めているも同然だものねと。
今日は大人しめのブラウスにジャンパースカートでまとめた、
シックないでたちのひなげしさんが やれやれとかぶりを振ってから、

 「ま、そうそう楽観するものじゃないことでしょうが、
  一応 “おおっぴらではないさりげない警護”のつもりらしいのに合わせて差し上げるなら、
  警戒しないで振る舞うのがこちらからの礼儀かもしれませんしね。」


何だか妙な小理屈を並べてから、
不意に くふふと意味深に笑った彼女だったのは、

 「…で? 榊せんせえはいらしてるんですか?」
 「……。(頷)」

今度はやや小さめにこくりと頷いた、金髪色白なお姫様。
ほのかに大人しめになったのは、

 「え? ややこしい緊張を加えないでほしいとねじ込んでたって?」
 「あらまあvv」

や〜んと照れてしまった紅ばらさんだが、
傍から見る分には、

 “眠くて愚図ってるようにしか見えないかもですね。”

こらこら、ヘイさんたら。(笑)
その抗議のために席を外しておいでの兵庫さんだったかと、
今やっと納得に至った七郎次の方は方で、

 「相変わらずにいいお兄さんだねぇ、兵庫さん。」

久蔵本人へは時に辛辣なお叱りも飛ばすが、
その陰でこうやって彼女が快適に過ごせるようにと気を配る人。
聞いた話では、まだずっと幼いころの久蔵ちゃんが
ご両親かかわりのレセプションだの取材だのに
引っ張り出されることも少なくはなかったのへと同行し。
移動中にお腹が空かないかとお手製のお弁当を常備したり、
セレモニーに同席だなんて途中で喉が渇かぬかと
わざとらしく呼び出したりして、
親御レベルで何くれとなく世話を焼いてもいたらしく。

 「本人からは おっかない人だと思われてないと
  しつけに都合が悪いなんて思ってたのかなぁ?」

兵庫に叱られるというのが
お行儀をただすのに一番効果的だったという話も聞いており。
ただ甘いだけじゃないと身内レベルで親身になって構ってくれてたお兄さんなのが、
少しずつ気になる人になり、
それからそれから、実はお互いが“転生びと”だという特殊な事情を知って。
お義理ではなくのこと、気にかけててもらえてたのかと気がついて、
でも、

  これってなんだろ、と

本人になかなか正体が掴めない、小さなむずむずが芽生えた。
家庭教師として毎日会ってたお人が、実は腹違いのお兄さんだったとかいうよなもの?
でも、だとして何か変わるのかな。
よそよそしくはならぬだろから、もっと甘えたになるものなの?
でもでも、好きの濃さはそうそう変わらないとも思った。

 だって兵庫は もうすでに随分と優しかったから

鋭角切れ長な眼差しは いつも隙がなく。
よそ見を叱られ、好き嫌いを諫められ、
そのくせ、例えば美術館とか自然公園でのお散歩とか、
何にか気になって足を止める久蔵へは、どのくらい長引いても付き合ってくれてて。
マイペースには慣れてると苦笑しつつ、あとの予定への“巻き”が入るのへも頑張ってくれて。
そういう“特別な”気遣いへと気づくうち、胸の内にもぞもぞが沸き立って。
お互いに忙しくなったせいか、一緒にいられる時間が激減したのが詰まらなくなったとか、
少しずつ元気になってく自分を褒めてくれるのが、
でもそれだと、
貧血で倒れたりしたときに検診がてら逢いに来てくれたのがやっぱり減るから
それはヤだなぁなんて思うようになったり。
そういう微妙なムズムズは、されどなかなか言い表せなくて。
今になって幼い子供みたいな癇癪持ちになったのかなんて、
とんでもない方向へ悩みがこじれかかっていたそれへ、

 『なんだ、それって兵庫さんが気になってるってことじゃないのvv』

語彙が乏しいわけじゃあないが、口数が極端に少ない久蔵なのへ、
そのままで十分とばかり、あっさりと想いを汲み取ってくれる七郎次が現れて。
困ったように眉を顰める様子を見守り、
おやおやぁ?それってもしかして…と、
思春期の娘さんらしい鋭敏さで進言してくれたのが、
ほのかな恋心を抱いているのではないかというご指摘で。

 『だって、突き詰めると一緒にいてほしいなって思うんでしょ?』

同い年のお友達が出来て、お出掛けするのも楽しくなったけど、
でもねあのね?
体調はどうだ、眩暈は減ったかと、中3日と空けずに様子見に来てくれていたものが、
週に一日に減ったのはたいそう堪えてムズムズしたし、
学校の校医さんになって逢う機会を増やしてくれても
毎日居るわけじゃないのはやはり、あ〜あと落胆する原因になるばかりだったと
上目遣いで白百合のお姉さまへ伝えれば、

 『ほらやっぱりvv』

そういうことはアタシにお任せをなんて、
胸元をポンと叩いて笑ってくれた七郎次で。

 『何たって片恋への蓄積は半端ないお人だしvv』
 『あ〜、ヘイさんだって人のこと言えないくせにぃ。////////』

大人の皆様からすれば、まだまだ微妙に大雑把な把握かも。
でもね、前世から引き継いだあれこれも持つという
ややこしい身なところもお揃いなお嬢さんたちなんだもの、
単なる恋愛相談以上にアテになったのは言うまでもなく。

 「あ、そろそろ袖まで行かなきゃいけないんじゃあ?」

出番はやや後らしいがそれでも打ち合わせや何やがあろうからと、
愛らしい姫役のお嬢様の白い両手を取り、
トウシューズや何やの支度はいいの?と世話を焼きかかっておれば、

 「久蔵、すまんな遅れた。」

いきなりの重警備への抗議のついでに
個人的に気になったらしいあちこちを自分でも見回ったらしく。

 『だって、スーツの肩のところにコンクリの壁で擦ったような跡が。』

それでと傍に居る時間が足りなくなったという榊せんせえが顔を出したので、
じゃあアタシたちは客席へvvと、
わざとらしくも足早に楽屋を出てった白百合さんとひなげしさんが

 「……あれ?」

バックヤードの片隅、
3幕に出されるという舞台装置の一角に 怪しい通信機器を発見し、
おややぁ?と顔を見合わせあったのは…また別のお話♪





   〜Fine〜  15.11.23.


 *いいお兄さんの日なので…という思いつきからのお話でしたが、
  ついつい “何か妙なもの見つけちゃったvv”と
  余計なほのめかしをくっつけちゃうのは、もはやお約束ということで♪
  そこからいろんな意味での“勤労感謝”しちゃったvvお嬢様たちなのへ、
  vvや♪をくっつけるなと、
  渋い顔するお歴々もいるんだろうけど、
  だったらとっとと嫁にして、
  いい夫婦の日だねvvと 甘やかしまくればよろしいのでは?(笑)

ご感想はこちらへvv めーるふぉーむvv

メルフォへのレスもこちらにvv


戻る